この記事で示すこと
- 2つの粒子がそれぞれMaxwell-Boltzmann分布に従って運動しているとき、その相対速度もまたMaxwell-Boltzmann分布に従うことを示す
モチベーション
二つの原子核が衝突して核反応を起こすとき、その反応の確率は相対速度に依存する。また、恒星内は局所的熱力学平衡状態にあると仮定すると、原子核の運動はMaxwell-Boltzmann分布に従う。
星の進化を考える上で核反応による組成変化は重要な要素であり、相対速度はその反応確率に影響を与えるため、相対速度分布を知ることは重要である。
ゼミで使っている教科書にはサラッと「相対速度もMaxwell-Boltzmann分布に従う」と書いてあったが、特に証明はされていなかったので、実際に計算してみることにした。
計算
質量 m1 の粒子1の速度分布は
f1(v)dv=(2πkTm1)3/2exp(2kT−m1v2)dv,
質量 m2 の粒子2の速度分布は
f2(v)dv=(2πkTm2)3/2exp(2kT−m2v2)dv,
であるとする。
粒子1が速度 v1 、粒子2が速度 v2 をとる同時確率密度は、各粒子が独立に運動していることから
f1(v1)f2(v2)dv1dv2=(2πkTm1)3/2(2πkTm2)3/2exp(2kT−m1v12)exp(2kT−m2v22)dv1dv2.
ここで、重心速度 V≡m1+m2m1v1+m2v2 と相対速度 u≡v1−v2 を導入すると
v1v2=V+m1+m2m2u,=V−m1+m2m1u,
と表せる。
exponentialの中身を整理すると
m1v12+m2v22=m1(V+m1+m2m2u)2+m2(V−m1+m2m1u)2=(m1+m2)V2+(m1+m2m1m2)u2=(m1+m2)V2+μu2.
最後に μ≡m1+m2m1m2 とした。ここで μ は換算質量である。
また、座標変換 (v1,v2)→(V,u) のヤコビアンは
det(∂(V,u)∂(v1,v2))=det(11m1+m2m2−m1+m2m1)=−m1+m2m2+m1=−1.
(2),(3),(4),(5)を用いて、(1)を整理すると
f1(v1)f2(v2)dv1dv2=(2πkTm1)3/2(2πkTm2)3/2exp(2kT−(m1+m2)V2−μu2)dVdu=fV(V)fu(u)dVdu.
ここで、fV(V) は重心速度の分布、fu(u) は相対速度の分布である。同時確率密度関数が規格化されているので、fV(V) と fu(u) も規格化されているとしてよい。
(6)式を V について積分すると
∫fV(V)fu(u)dV=fu(u)du∫fV(V)dV=fu(u)du=(2πkTm1)3/2(2πkTm2)3/2∫0∞exp(2kT−(m1+m2)V2−μu2)4πV2dVdu=(2πkTm1)3/2(2πkTm2)3/2exp(2kT−μu2)du∫0∞exp(2kT−(m1+m2)V2)4πV2dV=(2πkTm1)3/2(2πkTm2)3/2exp(2kT−μu2)du{4π41(m1+m22kT)3/2π}=(2πkTμ)3/2exp(2kT−μu2)du
となる。よって、相対速度の分布は
fu(u)=(2πkTμ)3/2exp(2kT−μu2).
これは質量を換算質量 μ としたときのMaxwell-Boltzmann分布そのものである。
ついでに、重心速度の分布は
fV(V)=(2πkTm1+m2)3/2exp(2kT−(m1+m2)V2),
となり、こちらも質量を m1+m2 としたときのMaxwell-Boltzmann分布である。